存在感増す外国人材。受入れ・定着のポイントとは

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岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。

お話を伺った方

社会福祉法人 同朋会 特別養護老人ホーム 椿野苑
施設長 井上祐子さん

はじめに

岐阜県の調査によると、現在、外国人介護人材を受入れている事業者は28%。現在は外国人介護人材を受入れていない72%の事業者のうち、「今後も受入れる予定がない」「受入れを検討したことがない」と回答した事業者は76%に上りました(「岐阜県外国人介護人材受入れ状況に関する実態調査結果(2024年度)」より)。また、同調査によれば、受入れを検討する段階における課題は、最多が「日本語のコミュニケーション能力に不安がある」25.4%、次いで「欲しい人材とマッチするか不安」19.4%、「金銭的負担が大きい」18.5%となっていて、外国人材の受入れに消極的な事業者が多い現状が浮かび上がります。 一方で、外国人材を積極的に受入れ、その活躍を組織の活性化につなげている事業者もあります。両者の違いは一体どこにあるのでしょうか。外国人材を15年前から受入れている山県市の特別養護老人ホーム 椿野苑を訪ね、お話を聞きました。

※出所:「岐阜県外国人介護人材受入れ状況に関する実態調査結果(2024年度)」

外国人材は貴重な戦力

1996年に山県市で最初の特別養護老人ホームとして設立された椿野苑では、2009年に外国人材の受入れをスタートしました。きっかけは、「EPA」の制度を知ったことでした。当時は今ほど介護人材不足が深刻ではなく、岐阜県内で外国人材を受入れている介護施設はまだ少なかったと思います。でも、少子高齢化の進展や労働力人口の減少を見据えると、人材の確保にしっかり目を向けなければと考え、受入れを決断しました。現在は、日本人職員40名に対して、インドネシアとミャンマーから来日した外国人職員が16名。今や、外国人材なくして良い介護サービス水準を維持することはできません。彼らは戦力として本当に必要不可欠な存在になっています。

長期在留が期待できる「留学」ルート

当施設で活躍している外国人材の在留資格は「EPA」が6名と最も多く、「介護(留学からの切替え)」が4名、「留学」が4名、「特定技能」が2名と続きます。外国人材というと、つい即戦力を期待したくなるのですが、そこはぐっと我慢。近年は、働きながら介護福祉士の国家試験合格に向けて学ぶ「留学」ルートの方の受入れに力を入れています。留学生は学業優先なので、法律で定められた週28時間(長期休暇中は週40時間)を超えて働くことができません。正直なところ、労働力としての短期的なメリットは得にくいのですが、長い目で見て優秀な人材を育てていくことができますし、何より施設や地域に愛着を持ってもらえて定着につながる良さがあります。また、留学生は岐阜県や当施設の奨学金制度を利用して来日するケースが多く、総じて学習意欲が高い。その点も大きな魅力だと感じています。

外国人材の受入れは組織変革のチャンス

「なぜ椿野苑では外国人材の活用がうまくいっているのですか」と聞かれることがあります。主な要因として、受入れ開始時期が早く、結果として外国人材の活用に関するノウハウを蓄積できたことが挙げられるかもしれません。ただ、これまでの道のりは決して順風満帆だったわけではなく、失敗もたくさんしてきました。そうした経験を踏まえて、私たちが考える外国人材との共生のポイントをご紹介したいと思います。

【ポイント1】新しい生活環境を整える

外国人材とのマッチングはほぼ運であり、ご縁です。来日前のオンライン面接や応募書類だけで、その方について深く知ることはできません。ですから当施設では、ご縁のあった方の可能性をいかに伸ばすかが大切だと考えています。最も重点を置いているのは、異国で安心して新しい生活を始められる環境づくり。家具や家電、生活用品などを揃えたアパートを寮として用意する、電動自転車やスマートフォンを貸し出すなどがその一例です。また、EPAルート以外の方に対しても就業時間内に週2時間の日本語学習時間を設けたり、同じ出身国の先輩職員をメンター役として配置したりと、外国人材にとっての不安をできるだけ解消することに努めています。

  • ▲外国人職員向けの寮を開設

  • ▲電動アシスト自転車を貸与

  • ▲週1回、日本語学習時間を用意

【ポイント2】言葉の壁を取り除く

外国人材の多くが受験する「日本語能力試験(JLPT)」には最も難しいレベルの「N1」から、最もやさしいレベルの「N5」まで、5つのレベルがあります。母国で介護や日本語教育を受けたEPAルートの方は比較的、日本語能力が高いのですが、EPA以外のルートの方は来日時点で片言しか話せないケースも珍しくありません。そのため、日々のコミュニケーションでは「わかりやすい日本語を使ってゆっくり、短文で話す」「うまく伝わらなかった時は表現を変えてみる」などの工夫を徹底しています。また、外国人材と一緒に働いてみると、方言も案外ハードルになることがわかったので「できるだけ標準語で話す」ことも心がけています。

【ポイント3】相互理解に努める

生まれ育った国が違えば、異なる文化や習慣、価値観が身に付いていて当然です。外国人材と共生していくためには「自分たちが普通、当たり前」という感覚を捨てなければなりません。その上で、施設として守ってほしいこと、たとえば時間管理や言葉づかい、マナー、報告の大切さなどを丁寧に教えています。一方で、外国人材が大切にしている宗教等にも最大限の配慮が必要です。当施設にはイスラム教徒の職員もいるので、お祈りの時間を確保したり、断食を行うラマダンの月は体力的な負担が大きい入浴介助担当から外したりしています。互いの違いを理解し、尊重し合える職場は外国人材だけでなく、あらゆる人にとって働きやすい職場。ダイバーシティそのものだと思うのです。

【ポイント4】相談しやすい雰囲気を作る

これは外国人材に限ったことではないのですが、ミスや失敗をした職員に対して指導する際に、利用者様や他の職員に見られないようにしています。感情的に叱ることは萎縮と思考停止を招くだけで、本人の成長につながりません。少し時間を置いて、できれば別室で、なぜミスや失敗が発生してしまうのか、ミスや失敗を防ぐにはどうすれば良いのかを一緒に考えます。そうすることで、わからないことをすぐに質問したり、困りごとを気軽に相談したりしやすい雰囲気が生まれます。

【ポイント5】外国人材のキャリアパスも考える

在留資格「介護」がスタートした2017年以降は「日本で長く働きたい」と考える外国人材が多く来日するようになりました。このことは介護業界にとって、とてもプラスになっていると実感しています。今後は外国人材が介護職として成長のキャリアパスが描けるよう、日本人職員と同じようにスキルアップの機会を設けることや、ライフステージの変化に合わせた働き方を支援することがより重要になっていくでしょう。その点については、当施設もこれから本格的に取り組む段階ですが、職員みんなで力を合わせてより良い職場を作っていきたいと考えています。

最後にもう1つ、私が声を大にしてお伝えしたいのは、経営層のマインドセットです。どんな外国人が雇用できるのか、現場になじめるのか、利用者様やご家族の理解は得られるのか、手続きが煩雑なのではないか・・・外国人材の受入れには不安要素が多く立ちはだかります。でも、日本人だけで介護施設を運営していくことはもはや不可能な時代になりました。経営層がその事実から目を背けず、自ら行動を起こすことが非常に重要だと思います。覚悟といってもいいかもしれません。やっぱり経営層が旗振り役になると、現場の意識もスピーディーに変わっていきます。外国人材の受入れは組織変革のチャンス。そんな経営層のポジティブなマインドセットが介護の未来を明るくすると信じていますし、私自身も微力ながら業界を盛り上げていく一助になりたいと考えています。

介護現場で外国人材を受入れる仕組み 介護現場で外国人材を受入れる仕組み

EPA

日本と経済連携協定を締結しているインドネシア、フィリピン、ベトナムの3カ国から人材を受入れる制度。母国で看護学校・看護課程の卒業・修了 、大学などの高等教育機関を卒業し、日本語教育も受けているため、即戦力としての活躍が期待できます。

技能実習

各外国人材の母国の経済発展に協力することを目的として2017年に施行された在留資格。技能水準および日本語能力水準を測る試験に合格するなどの要件を満たすと取得でき、介護事業所に最長5年間就労することが可能です。

特定技能

介護分野において深刻化する人手不足を解消するため、2019年に新設された在留資格。各分野の相当程度の知識または経験を持つ即戦力の人材で、あっせん機関を利用せず自社で採用できるのが特徴です。就労期間は最長5年間です。

介護

日本で介護職として就職するための在留資格。介護福祉士資格を所有していることが条件で、介護福祉士国家試験を実務者ルートで合格または介護福祉士養成校を卒業した外国人が対象となります。家族の帯同が可能であることも特徴です。

外国人材の受け入れに関する相談窓口 外国人材の受け入れに関する相談窓口

岐阜県では外国人の受入れを検討している介護事業者等の窓口を中部学院大学に委託し設置しています。
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社会福祉法人 同朋会 (グレード2)
特別養護老人ホーム 椿野苑

岐阜県岐阜県山県市大桑3615-1

TEL 0581-22-6001
FAX 0581-22-6005

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