
岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。
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お話を伺った方
社会福祉法人 同朋会 特別養護老人ホーム 椿野苑
介護福祉士 イ・ピュー・アウンさん2018年、23歳の時にミャンマーから留学生として来日。社会福祉法人 同朋会 特別養護老人ホーム 椿野苑の支援を受けながら、中部学院大学短期大学部 社会福祉学科で2年間学び、卒業後は同施設の正職員になり、介護福祉士として活躍しています。
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はじめに
介護事業所で働く外国人材の存在感が増しています。その理由として挙げられるのは、2017年9月に在留資格「介護」が誕生し、外国人材の受け入れルートが拡充したこと。留学生が短期大学や専門学校などの介護福祉士養成校で2年以上学び、国家資格「介護福祉士」を取得すれば、日本で働き続けられるようになりました。これを受け、留学生に対して学費の貸付や生活のサポート、アルバイト先の提供などを行い、夢の実現を支える介護事業者が岐阜県内でも現れ始めました。
外国人材を積極的に雇用している山県市の特別養護老人ホーム 椿野苑もその1つ。2018年から関市の中部学院大学短期大学部と協力し、介護福祉士を目指す留学生の受入れを行っています。しかし、留学生が故郷から遠く離れ、言葉も文化も違う日本でアルバイトをしながら学び、日本語で書かれた国家試験にチャレンジすることは、並大抵のことではありません。コラム:「存在感増す外国人材。受入れ・定着のポイントとは」では、そうした「難しさ」を受入れ側である介護事業者が理解し、いかにフォローするかが、留学生を含めた多様な外国人材の定着や活躍のカギを握ることをお伝えしました。
今回は、外国人材側にスポットを当て、実際の声をお届けします。お話を聞いたのは、椿野苑が受入れた留学生の第1号であり、現在も同施設で介護福祉士として働くミャンマー人のイ・ピュー・アウンさん。彼女はなぜ日本に来ることを選び、今どのような思いで暮らしているのでしょうか。そして、思い描いている未来とは?本記事を通して、外国人材の価値観の一端にふれていただければ幸いです。



※出所:「岐阜県外国人介護人材受入れ状況に関する実態調査結果(2024年度)」
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両親を助けたい気持ちがモチベーションに
私はミャンマー南部で農業を営む父と母の間に5人きょうだいの4番目として生まれ、自由にのびのびと育ちました。幼い頃は比較的、裕福な家庭だったと思います。でも、ミャンマーは政治や経済の状態が不安定で、両親は以前のような収入が得られなくなりました。少しでも家計を助けたいと思った私は大学進学後、勉強しながら病院で看護助手のアルバイトをすることに。そんなある日、職場の医師が「日本には、介護という仕事があって、(在留資格 介護の取得を目指す)留学プログラムが用意されているから、チャレンジしてみたら?看護助手の経験も生かせるよ」と教えてくれたんです。その時、目の前がぱっと明るくなったような気がして、日本で働くことを決めました。海外旅行もしたことがなかったので、不安が全くなかったわけではありません。でも、それ以上に「日本はどんなところなんだろう」というワクワク感や、両親を楽にしてあげたい気持ちの方が大きかったですね。
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第2の家族のような存在ができた
来日後に入居した椿野苑の寮は、1Kの間取りの部屋にきれいな家具や家電も用意されていて、感動したことを覚えています。その寮を起点に1年間は日本語学校で、2年間は中部学院大学短期大学部 社会福祉学科で学ぶかたわら、空き時間や休日に椿野苑でアルバイトをするという生活が始まりました。山県市は生まれ育った故郷みたいに自然豊かなところですが、スーパーやコンビニ、飲食店、病院などが揃っていて便利。見るもの、食べるもの、触れるもの、全てが新鮮で、いろいろな「初めて」を経験しながら、少しずつ日本の暮らしに馴染んでいきました。外国人職員として活躍する先輩たちが身近にいたことも心強かったです。
私はできるだけたくさん働いて両親に送金したい気持ちを持っていたので、大学時代は、留学生のアルバイトとして法律で定められている時間(週に28時間以内。長期休業期間は週に40時間以内)いっぱいまで働きました。勉強と仕事の両立は大変でしたが、ぶじに卒業して介護福祉士国家試験に合格できたのは、井上施設長をはじめ、一緒に働く職員さんが温かくサポートしてくださったおかげ。いつも笑顔で接してもらえるので安心感がありましたし、ミスをした時はその場で叱ったりせず、後から「こうするといいよ」と優しく教えてくれました。市役所での手続きなどに付き添っていただいたこともあります。みなさんは私にとって、第2の家族のような存在になりました。ずっと一緒に働きたいと思える人たちと出会えたことは、椿野苑に入って良かったと思うポイントの1つです。
▲椿野苑が提供する外国人職員向けの寮
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支えてくれた人たちに恩返ししたい
気がつけば、来日して7年目、椿野苑の外国人職員としては一番のベテランになりました。現在は介護福祉士としての業務はもとより、ミャンマーから新しく来日した留学生や特定技能職員の指導係も務めています。利用者の方々ともすっかり仲良くなりました。私の顔を見ると、ニコニコしながら「今日はアウンさんがいてくれてうれしいわ」と言ってくださる方もいて、心が温かくなります。
プライベートでは昨年、来日前から長くお付き合いしていたパートナーと結婚しました。夫は航海士のため、日本で一緒に暮らすことは難しいのですが、夫の妹が来日したので、それを機に一軒家を借りて一緒に住んでいます。休日はふたりで料理をしたり、ショッピングやドライブに出かけたり。新しい家族ができて、今まで以上に楽しく充実した日々を過ごしています。今後の目標は、介護福祉士としてさらにスキルアップして、これまで支えてくれた日本のみなさんに恩返しをすること。できれば子どもを産んでママにもなりたい。椿野苑は、子育てと仕事をサポートするさまざまな制度が整っていますし、グループの法人は保育園やこども園も運営しているので、この先もライフステージの変化に合わせて柔軟に働くことができそうです。私が活躍することが、同じバックグラウンドを持つ人たちの背中を押すことにつながると思うので、がんばっていきたいです。
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岐阜県では外国人の受入れを検討している介護事業者等の窓口を中部学院大学に委託し設置しています。
詳しくはこちら
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社会福祉法人 同朋会 (グレード2)
岐阜県岐阜県山県市大桑3615-1
特別養護老人ホーム 椿野苑TEL 0581-22-6001
FAX 0581-22-6005
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