「介護職員の働きやすい職場環境づくり厚生労働大臣表彰」を受賞した県内3法人の取組み

もっと介護職の話をしよう もっと介護職の話をしよう

岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。

はじめに

職員の待遇改善や人材育成、生産性向上に先進的な視点で取組む介護事業者を評価し、好事例の普及を図る「介護職員の働きやすい職場環境づくり内閣総理大臣表彰」「介護職員の働きやすい職場環境づくり厚生労働大臣表彰」が2023年度からスタートしました。
今回は「厚生労働大臣表彰」の奨励賞(全国で54事業者)を受けた岐阜県内の3事業者の事例インタビューをご紹介します。働きやすい職場づくりに取組むにあたっての参考、ヒントとしてぜひご覧ください。

  • ダイバーシティ型人材育成・活躍を
    グループ全体のプロジェクトとして推進

    特定医療法人フェニックス
    老人保健施設 サンバレーかかみ野
    会長 長縄伸幸さん

各務原市を拠点に、29の事業所を展開するフェニックスグループの経営方針は「スタッフよし、ご利用者よし、地域よしの三方良し」。働く職員も利用者様も地域の方々もイキイキと輝く、明るく元気な職場づくり、地域づくりへの貢献を目指しています。

職場づくりにおいて特に力を入れているのが、ダイバーシティ型人材育成・活躍の推進です。2015年からグループ全体でプロジェクトとして取り組んでいるもので、背景には人口減少によって採用難や人材不足が進むことへの懸念がありました。避けては通れないその課題と向き合うためには、若手の人、子育てや介護と仕事を両立したい人、シニア世代の人、障がいや疾患のある人、外国籍の人など、あらゆる人材が気持ちよく長く働ける職場づくりが欠かせません。一人ひとりが互いの違いや事情を尊重し、支え合いながら成長していける場所、スポーツにたとえるなら、プレイヤーの役割が時々で変化するサッカーチームのような組織になろうと考えたのです。

プロジェクトの始動から今年で10年目に入りました。その間、就業中に子どもや孫を預けられる事業所内保育所の設置、柔軟な勤務制度の整備(短時間正職員、フレックスタイム、特別有休育児休暇 他)、福利厚生の充実(誕生日のギフトカード進呈 他)、スタッフの適正な評価と育成、クレド作成による経営理念の浸透活動、介護助手の活用など、さまざまな取組みを、スピード感を持って進めてきました。

ユニークなところでは、管理・指導能力に優れたベテラン職員に、若手の相談役を担ってもらう「スーパーバイザー」制度、独身の職員の縁結びを支援する「婚活イベント」の開催などがあります。スーパーバイザー制度は、管理職を離れたベテラン職員にとって新たなモチベーションになっており、職場全体のコミュニケーション活性化にもつながっています。婚活イベントは、各務原市内にある「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」間で共同開催しているものですが、予想以上の反響があり、これまでに5組ほどのカップルが誕生しました。せっかく育った人材が他地域の方と結婚したり、転勤になったりして退職するケースが減るのではと期待しています。

近年は、介護ロボットやICT機器の導入にも注力しています。機械やデジタルにできることは任せ、介護職は人にしかできない「利用者様と心を通わせ、最適なケアを考える」業務に集中していく。そうすることで、今よりもっと働きやすさも働きがいもある職場にしていきたいと考えています。

【数値で見る働きやすい職場環境づくりの成果(グループ全体)】

  • 離職率 9.0%(2022年度)
  • 有給休暇取得率 80.0%(2022年度)

※職員数約550名

特定医療法人フェニックス
老人保健施設 サンバレーかかみ野

岐阜県各務原市須衛町3丁目136

TEL:058-370-7777
FAX:058-370-7755

  • ICT機器や介護ロボットを活用して
    利用者様と接する時間を最大化

    社会福祉法人和光会
    特別養護老人ホーム ナーシングケア北方
    施設長 吉村双羽さん介護主任 鮎川誠司さん

和光会グループは「みんなを笑顔に」というグループ理念を掲げ、岐阜市を中心に医療、介護、障がい者支援、子育て支援の総合福祉サービスを提供しています。80以上の事業所で働くすべての職員にとって、理念は心の拠りどころ。利用者様、ご家族、一緒に働く仲間、関わる人を笑顔にするにはどうすればよいかを一人ひとりが自らに問いながら、また周囲とベクトルを合わせながら日々の業務に取り組んでいます。

私は2年前にナーシングケア北方の施設長に就任しましたが、前任者の「自分自身、自分の大切な人を入所させたい施設」という考え方を引き継ぎ、その実現を後押しするICT機器や介護ロボットの活用を積極的に進めてきました。
当施設で導入している5種類の介護ロボットのうち、特にメリットを実感しているのが見守り支援機器「ライフリズムナビ+Dr.」です。シート状のセンサーをマットレスの下に敷き込むと、利用者様の心拍、呼吸、睡眠状態や覚醒、離床動作を把握できるというもので、夜間巡回作業の負担軽減はもちろん、適切なタイミングでケアが行える、転倒事故予防に役立つなどの効果が得られています。導入から1年後に職員に実施したアンケートの結果でも、心身のストレス軽減に大きく寄与したことが分かりました。

ICT機器や介護ロボットの導入をスムーズに進めるためのポイントを1つ挙げるとすれば、「現場主体」です。なぜ導入し、どう使うのかをみんなが理解していないと、どんなに良いものでもなかなか浸透しません。当施設の場合は、ユニットリーダーたちがプロジェクトチームを結成し、毎月ミーティングで相談し合うなどして現場への定着を図りました。
介護現場における生産性向上の取組みは、今後ますます重要になっていくでしょう。私たちも継続的に努力を重ね、次のステップとして、介護の質向上に資する研修にこれまで以上に力を入れていきたいと考えています。(施設長 吉村双羽さん)

ナーシングケア北方で、介護ロボットを本格的に導入したのは、2022年のことです。当時、すでにICT化は進んでいて、記録業務やカルテをシステムでデジタル化し、タブレット端末も活用していました。業務を効率化することで生まれたゆとりを、サービス向上や残業削減につなげる。そういう気運が高まっていたため、介護ロボットの導入も比較的スムーズだったと思います。

最初に取り入れた介護ロボットは、とろみがついたお茶やコーヒーなどの飲料をボタン1つで作れる「とろみサーバー」。その後、極微細気泡で身体を洗う入浴介助装置「ピュアット」、排尿のタイミングを見える化する排泄予測デバイス「D Free」、移乗などの介助動作を補助してくれるアシストスーツ「fleairy」、見守り支援機器「ライフリズムナビ+Dr.」と専用カメラシステムを導入していきました。見守り支援機器は、センサーから得られた利用者様の心拍、呼吸、睡眠状態を自動で記録してくれることから、徐々に食事量や排泄チェックといった情報もタブレットに入力するようになり、ペーパーレス化が加速しました。

介護職の仕事で最も重要なのは「利用者様を知る」ということ。日々語りかけ、観察し、何が必要かを考える。その時間を最大化するために、間接業務をできるだけ効率化する努力をこれからも続けていきたいと思います。(介護主任 鮎川誠司さん)

【数値で見る働きやすい職場環境づくりの成果(グループ全体)】

  • 有給休暇取得率 80%(2022年度)
  • 育休復帰率 100%(2022年度)

※職員数約1800名

社会福祉法人和光会
特別養護老人ホーム ナーシングケア北方

岐阜県本巣郡北方町柱本白坪2丁目3

TEL:058-322-4165
FAX:058-322-4162

  • 人材教育、多様な働き方の支援で
    利用者様も職員も笑顔にする職場づくり

    社会福祉法人 新生会
    サンビレッジ新生苑
    事務長 加野有規枝さん施設長 松野祐樹さん

新生会の始まりは、医師で初代理事長が揖斐郡池田町で社会福祉法人サンビレッジ新生苑を立ち上げた1976年にさかのぼります。そして「医療・福祉の根源は生活の中にある」という考えのもと、同名の特別養護老人ホームを、当時は珍しかった市街地に建設しました。現在は西濃・岐阜エリアに、施設サービスから在宅サービスまでを一元的に提供しています。

利用者様の自己決定を尊重し、その人らしい生き方を職員がサポートする。私たちが目指す介護は、そのまま職員の働きやすさにつながっているのかもしれません。
介護福祉士など資格を持った職員は専門性を発揮し、他にも掃除や洗濯、ガーデン整備、食事の配膳、利用者様の送迎など、さまざまな「役割」を専任で担う介護助手がいます。産休育休からの復帰率が高いので子育て世代の職員も多く、夕方からの時間帯を養成校の学生が担い手になることで、誰もが無理なく働ける仕組みを整えてきました。家族構成の変化など個別の事情に対応する柔軟な働き方が働きやすさにつながり、多様な働き方の職員がいることで互いに認め合う文化も定着しています。「生涯現役」を合言葉に介護の仕事が続けられなくなっても、役割を変えながらチームメンバーとして働き続け、利用者様も働き手も笑顔で過ごせる好循環が生まれています。

また職員一人ひとりの意見を聞く「話そう会」は、想いの共有や悩みを相談できることが職員の定着につながっていると感じています。人を大切にする新生会らしさをこれからも大切に守り、時代に合った誰もが働きやすい職場づくりを目指していきたいと思います。(事務長 加野有規枝さん)

新生会の「働きやすさ」を支えているのは、自律的に学習・成長していける手厚い人材育成体制だと私は考えています。ただ研修や資格取得支援などの制度が用意されているだけではなく、「学ぶ」ことがごく身近にあって、一人ひとりのモチベーションがとても高いと感じます。法人グループ内に介護福祉士や作業療法士、言語聴覚士を育成するサンビレッジ国際医療福祉専門学校があり、相互に連携できることも大きな特徴でしょう。机上で学び、その学びを現場のフィールドで深めることができるメリットは大きいと感じます。学業のかたわら、施設でアルバイトをする在学生もたくさんいるので、自分たちの知識やスキルを増やしていける環境であり、即戦力を育む場でもあります。

学び合う風土から生まれた職員主体の勉強会も盛んです。「がやがや学ぼう会」もその1つ。「口腔ケア」「ターミナルケア」「コンチネンスケア」をテーマに、日々の業務の中で起こっている悩みや困りごとについて、参加者が意見交換するもので、他職種や他拠点の職員と交流する機会にもなっています。

今後は「働きやすさ」に加えて、より「働きがい」も得られる職場にしていくのが法人としての目標。その実現のために、職員に対して幅広いチャレンジの機会を用意することも大切だと考えています。具体的な取組みとして、今村勲記念館をより上質な設えとしてリニューアルオープンしました。新しいことにどんどんチャレンジして、職員と組織が共に成長していく。そんな未来を思い描いています。(施設長 松野祐樹さん)

【数値で見る働きやすい職場環境づくりの成果(グループ全体)】

  • 離職率 7%(2022年度)
  • 育休復帰率 100%(2022年度)

※職員数約620名

社会福祉法人 新生会
サンビレッジ新生苑

岐阜県揖斐郡池田町本郷1501番地

TEL:0585-45-5545
FAX:0585-45-7131

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