介助する側・される側どちらにもやさしい「北欧式トランスファーテクニック」

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岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。

お話を伺った方々

社会福祉法人 杉和会
盲養護老人ホーム 優・悠・邑 和(なごみ)
施設長(2021年4月~) 吉澤進治さん

特別養護老人ホームやデイサービスを運営する杉和会に入職して13年目。介護福祉士、認知症介護指導者の資格を持ち、介護現場の第一線で活躍する傍ら、法人の枠を超えて北欧式トランスファーテクニックの普及にも力を注いでいます。現在は、岐阜県初となる盲養護老人ホームの開設に向けて奔走中。

「抱え上げない」移動・移乗介助

移乗や入浴の際に利用者様を抱え上げるなど、介護現場で日常的に行われる動作には、介助者の腰に過重な負担がかかると言われています。そうした動作を1日に何回も、そして毎日続けていたら、職員が腰痛を発症してしまうのも無理はありません。やる気があるのに、腰痛を原因にこの仕事が続けられなくなってしまうのは、職員本人にとってとても辛いこと。人材不足が叫ばれている業界にとっても大きな問題です。
かつて当法人でも、慢性的に腰に痛みを感じながら働いている職員が多くいました。「腰痛は職業病だから仕方ない」とあきらめず、なにか良い予防策や改善策はないものか。そんな時に当法人の若山宏理事長が出合い、導入を決めたのが「北欧式トランスファーテクニック」でした。
北欧式トランスファーテクニックは、デンマーク在住の小島ブンゴード孝子さんという方が日本に紹介している移動・移乗介助法。利用者様を抱え上げず、ご本人の協力も得ながらスライディングボードやスライディングシートの上を滑らせて移動・移乗を行い、介助する側・される側のどちらにもやさしい介護を目指すものです。導入にあたって、当法人では私がリーダーを務め、デンマークの小島さんのもとへ2週間研修にも行きました。福祉先進国と呼ばれるデンマークでは「住み慣れた地域で自分らしく生きる、自分の人生は自分で決める」という考え方が浸透していて、障害や加齢で身体機能が低下しても、残存機能をできる限り活用してQOL(Quality Of Life:クオリティオブライフ/生活の質)を維持することが当たり前になっています。介助者は利用者の方の自主性を尊重し、むやみに手助けをしません。着替えひとつをとっても、たとえどんなに時間がかかっても、利用者の方を見守ることに徹します。北欧式トランスファーテクニックはそういう福祉観の中から生まれたのでしょう。利用者の方が積極的に参加すればするほどトレーニングになり、結果として介助者の負担も軽くなる。デンマーク研修を通して私は「介護はお世話をすることではなく、利用者様と介助者の協働作業」なのだと、改めてその本質を学びました。

▲北欧式トランスファーテクニックを使った移乗介助の様子

▲スライディングシートはヨットの帆と同素材で摩擦が少ない

腰痛による離職がゼロに

北欧式トランスファーテクニックには、安全かつ適切に実践するための7つの基本的な考え方があり、それらを理解して技術を身につけることが大切です。ただ、従来の介護技術とはまったく異なる上に、跳ね上げ式の車椅子やスライディングボード、スライディングシートといった用具を揃える必要もあり、現場への浸透は決して容易ではありません。事実、当法人でも導入当初は、従来の介護技術に自信を持つベテラン職員から「今までのやり方より時間がかかる」「覚えるのが大変」などの不満が少なからず出ました。でも、熱意を持って粘り強く説明や勉強会を開催した結果、腰痛の改善や利用者様とのコミュニケーションの質向上に効果を実感した職員が増えていったのです。本格導入から13年目となる現在では170名の全職員が実践し、腰痛による離職はゼロになりました。
当法人では、介護施設向けに北欧式トランスファーテクニックの無料研修も行っていて、岐阜県内はもとより、全国各地での開催実績があります。介助する側・される側のどちらにもやさしい介護技術にご興味のある方はぜひ、お気軽にお問い合わせください。志を同じくする方々と出会い、交流させていただけることを私たちも楽しみにしています。

【北欧式トランスファーテクニックの基本的な考え方】

  1. 持ち上げない
  2. 利用者の積極的な参加
  3. 自然な動き
  4. 摩擦
  5. 傾斜
  6. てこの原理
  7. 太極拳のようにしなやかに

北欧式トランスファーテクニックに関するご相談

社会福祉法人 杉和会 (グレード1)
特別養護老人ホーム 優・悠・邑

〒503-1543 岐阜県不破郡関ケ原町大字今須782-1

TEL 0584-43-3155
FAX 0584-43-3156

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