岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。
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お話を伺った方々
社会福祉法人 浩仁会 セント・ケア おおの
施設長 木村裕亮さん(写真中央)
ケアマネジャー 高橋麻紀さん(写真左)
介護チーフ 喜多川美恵さん(写真右)揖斐郡大野町で地域密着型特別養護老人ホーム、ショートステイホーム、グループホームを運営する「セント・ケア おおの」。同施設では、介護サービスの質向上や職員の負担軽減を目指し、2015年から介護ロボットとICTの導入を進めています。中でも、要介護度の高い寝たきりの方や認知症の方が多く暮らす特別養護老人ホームで存在感を発揮しているのが「見守り支援ロボット」。県や町の補助金を活用しながら2022年11月までに、全29床に対し17台を整備したといいます。導入によって介護現場はどのように変化したのでしょうか。施設長の木村裕亮さん、ケアマネジャーの高橋麻紀さん、介護チーフの喜多川美恵さんにお話を伺いました。
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はじめに
日本では超高齢社会が進展し、介護の担い手不足が大きな課題となっています。岐阜県においても例外ではありません。
今回は、その課題を解決するツールの1つ「介護ロボット」に焦点を当て、事例を交えながらご紹介します。
ロボットと聞くと、自立して歩いたり、会話ができたりする人型のものをイメージしがちですが、介護現場で広がりつつあるのは「情報を感知し、判断して動く」という一連の機能を備えた福祉用具全般を指し、移動支援機器から排泄支援装置、見守り支援機器まで、種類も豊富。
みなさんが関わる現場でどのように生かしていけるか、ぜひ考えてみませんか。
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きっかけは「利用者様のQOL向上と職員の負担減を叶えたい」との思い
当施設が介護ロボットを導入したのは2015年のこと。きっかけは「介護サービスの質の向上と職員の負担減を叶えたい」との思いからでした。介護業務は利用者様の体を抱え上げるなど、中腰や前かがみになる動作が多く、腰痛に悩む職員も少なくありません。また、職員が利用者様をつきっきりで見守ることが難しい居室では、どうしても転倒事故が起こりやすくなります。そうした課題を解決する一助として、介護ロボットの活用があることを知り、メーカーの実証実験に参加する形で導入をスタートしました。
介護ロボットのデモ機をいろいろ使ってみると、製品ごとに個性や得手不得手があることが分かり、現場のニーズに合う機器、本当に必要な機器というものが見えてきます。職員たちと議論を重ねた結果、当施設では見守り支援機能に特化してロボット活用を進めていこうと決め、大野町の「地域介護・福祉空間整備促進事業補助金」、岐阜県の「介護ロボット導入促進事業補助金」を利用して、「眠りスキャン」というロボットを2017年から順次導入していきました。「眠りスキャン」は、圧力センサーを内蔵したシートをベッドマットの下に敷き込むだけで利用者様の睡眠や心拍、体動などをモニタリングできる製品です。その導入に合わせてパソコンやタブレット、スマートフォンも購入し、ロボットが見守る利用者様の状態を各端末で常時把握できるようにしました。
「眠りスキャン」の良さは、設定した状態や心拍数・呼吸数になると端末に知らせが届くこと。利用者様の睡眠を妨げず、目覚めていらっしゃる時にケアを提供できます。急変への早期対応や複数コール時の緊急度の判断もしやすく、結果としてベッドからの転倒事故件数が導入前と比べて約40%減少しました。また、24時間記録が取れるので、利用者様一人ひとりの健康管理や根拠に基づいたケアの改善にも役立っています。看取り期になると、バイタルの波形から医師やご家族に連絡するタイミングが分かるのも大きいですね。
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2021年には「眠りスキャン」と連動する専用のカメラシステムも導入したことで、より的確な判断が可能になりました。万一、転倒事故が起こった場合も、動画データから原因背景を検証し、それを踏まえた予防対策を講じられますし、ご家族に対して「かもしれない」ではなく「こうだった」と正確な説明ができるので、職員の精神的負担の軽減にもつながっていると思います。
その他、見守り機能付きエアマットレス「アメリア」も導入。これは、体動でナースコールと連動してお知らせ機能とじょくそう予防のための3D除圧機能で体圧分散してくれる介護ロボットで、主に寝たきりの利用者様に活用しています。 介護ロボットの導入をうまく進めていくには、やはり選定がポイントになるのではないでしょうか。スタッフと利用者様の間にテクノロジーが入ってきた時に、現場がどのように変化するのかを捉え、使いやすさ、効果、利用者様の尊厳などを総合的に考慮する必要があります。それらの判断材料として、福祉用具の展示会で情報収集をしたり、メーカーさんからデモ機を借りたりするのは非常に有効です。
また、現場の職員を巻き込み、PDCAサイクルを常に回し続けることも大切です。介護ロボット活用と業務改善は両輪です。効率化し、生み出した時間で何ができるのか。人にしかできないケアとは? 自分たちで答えを出し実践していくことで、介護業界の未来は明るいものに変えられると私たちは信じています。
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<見守り支援ロボット導入のメリット(セント・ケア おおのの場合)>
- 複数の利用者様を同時に見守ることができる
- ケアの適切なタイミングを図ることができる
- 過剰な訪室を減らし、職員の負担を軽減できる
- 対応の優先順位や緊急度が判断できる
- 利用者様の総合的な健康管理に役立てることができる
- 転倒事故を予防できる
- データの履歴を活用し、転倒の原因把握や防止策の立案ができる
<導入前後の数字比較(セント・ケア おおのの調べ)>
- 転倒事故件数 → 年間約40%減
- 残業時間 → 年間約10%減
- ▲見守り支援ロボットの設置に際して、期待できる効果を家族にも丁寧に説明し、同意を得た
- ▲利用者様のプライバシーに配慮し、カメラを設置する場所や撮影角度を決めている
- ▲2022年からは介護記録支援システムを導入。ICT化にも積極的に取り組んでいる
近年の介護報酬改定にも表れているように、国は介護現場におけるロボットの導入を積極的に進めています。そうした動きを受け、岐阜県でも介護事業者向けに関連補助金事業を行っていますので、詳しくは県のHPをご確認下さい。
担当:岐阜県健康福祉部高齢福祉課 長寿社会推進係
TEL:058-272-8289(直通)
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社会福祉法人 浩仁会
〒501-0553 岐阜県揖斐郡大野町南方石ノ上356番地1
セント・ケア おおの(グレード2)TEL 0585-35-0058
FAX 0585-35-0085
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