岐阜県の介護業界の未来を担うのは、
志を持った学生、現場で働くプロフェッショナルのみなさんの存在です。
そうした方々に着目し、あらゆる角度から、
介護の仕事と学びについて考えていきます。
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お話を伺った方
えがお社会保険労務士事務所代表
社会保険労務士
キャリアコンサルタント
岐阜県仕事と家庭の両立支援アドバイザー
吉田裕里子さん「働く人、働きたい人を笑顔にしたい」を理念に、社会保険労務士として企業を、キャリアコンサルタントとして個人をサポートし、各職場の働きやすさ実現や活性化に努めています。「楽しく働く仕組み」としてのワーク・ライフ・バランス推進を企業に提唱。研修会で具体的な取り組みへの提案・支援を行っています。
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女性を取り巻くワーク・ライフ・バランスの課題
女性職員の比率が高い介護業界。人材不足の現状からも女性が働きやすいよう意欲的に取り組む介護事業所が多く、比較的、仕事と生活の調和やワーク・ライフ・バランスが図られている業界であるといえます。産前・産後および育児休業といった制度も浸透していますが、一方で、これから解決に向け、事業所と職員で知恵を出し合っていかなければならない課題も多く抱えているのが実情です。
育休後に職場復帰しても、幼い子どもがいて夜勤ができないという女性は多く、職員全体の勤務シフトに苦労する事業所もあるようです。事業所においては職員が仕事と子育てを両立させることができ、働きやすい職場環境を整えるよう努力されていると思いますが、同じ待遇で働いているのに、夜勤を免除されたりシフトで優遇されたりすることで不公平感が生まれ、職場の雰囲気に影響するといったことも見受けられます。これはワーク・ライフ・バランスが浸透しているようでも、職員一人ひとりの意識にはまだ差があり、事業所側の働き掛けがなかなか追いついていないことが一つの原因といえるでしょう。
事業所としては、政府の働き方改革「同一労働同一賃金」が今後施行されることもあり、短時間正社員、職務限定正社員といった多様な雇用制度を採り入れ、働き方と処遇のバランスを取り、不公平感を解消しようと考えるところも出てきています。また、託児所を設置する事業所もありますが、最近課題として目立ってきたのが学童保育の必要性です。例えば学校行事で平日が振替休日になると、同じ地域に住む女性職員が一斉に休まないといけない状況になることもあります。今後は事業所内に子育て支援員等を配置して児童を預かるというようなことも選択肢の一つかもしれません。この環境は高齢者と児童の交流の場となり、次世代の介護職人材をはぐくむきっかけにもなると思います。
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ワーク・ライフ・バランスを実現する風土の大切さ
こういった課題に取り組むうえで問われるのが事業所側の姿勢です。よく「制度があっても風土がなければ使えない」といわれます。育休を取ろうとする職員に、ベテラン職員が「私たちの若いころは育休なんて…」と言うと取得しづらくなってしまいます。ワーク・ライフ・バランスを重んじる風土を目指していることを事業所側がミーティング等で職員全員に伝え、「休みが必要になるのはお互い様だから一緒に頑張ろう」と根付かせることが大切です。育児と仕事の両立にスポットが当たりがちですが、今後は誰もが介護と仕事の両立に直面する可能性が高いからです。職員同士のコミュニケーションがうまく取れていないと感じた場合には、個別面談も必要となってくるでしょう。
現在岐阜県では、ワーク・ライフ・バランスに先進的に取り組む企業・団体を「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」として認定する制度を行っています。女性職員が多い介護業界では多くの事業所が認定され、それぞれワーク・ライフ・バランスが定着する風土へと独自の工夫をしているようです。例えば3、9月(サンキュー)に、職員同士が普段伝えられない感謝の気持ちを「サンキューカード」に書き込んで掲示する取組みがあります。円滑なコミュニケーションに役立ち、お互い様の意識をはぐくむ効果があるようです。また、育休中に面談の日を設け、子ども連れで事業所に遊びに来てもらうようにしているところもあります。職場が今どんな様子か分かっていた方が復帰しやすいという配慮からです。ほかにもやむを得ず退職する職員にパスポートのようなものを渡し、求人の際に優先的に連絡するなど、いつでも職場復帰できるような制度を整えているところもあります。
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女性がキャリアアップしやすい業界
このように課題はあるものの、女性職員が多い職場環境であることを理由の一つとして、先進的にワーク・ライフ・バランスに取り組んでいる事業所が多いのが介護業界です。女性が働きやすい業界は、女性がキャリアアップしやすい業界ともいえます。女性職員の比率が高い業界なので、女性管理職が多いかといえば、そうではありません。現状では職員比率に対して管理職比率が低い事業所が多くなっています。これは女性の管理職進出の余地があるということなのです。「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」の認定指標にも、女性管理職登用が項目の一つとして掲げられているので、事業所としても女性のキャリアアップを期待しているのではないでしょうか。そういう意味でも、女性に非常にチャンスがある業界であることは間違いありません。
介護業界では介護福祉士やケアマネジャーなど、資格が明確なので目標を持ちやすく、キャリアを積んでステップアップしやすいと思います。現場での経験で培った、女性が働きやすい環境整備への方策も、自らが管理職となればマネジメントしやすく、実現させることも可能でしょう。後輩のためにもぜひキャリアアップを目指してほしいと思います。
また、これから介護業界を目指す生徒・学生には、ワーク・ライフ・バランスにどれだけ力を入れているかという点も職場選びの基準にしてほしいと思います。例えば資格取得支援を行っている事業所は、ワーク・ライフ・バランスに配慮した職場といえますね。介護はこれからニーズが増えていく仕事で、たとえAIが普及しても取って代わられることもなく、長く続けられるはずです。若い人たちの力で、業務改善等を通してワーク・ライフ・バランスをもっと高めていける業界なのです。
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「岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業」認定制度
平成23年度に創設し、平成30年度までに124社を認定しています。うち、介護業界を含めた医療・福祉分野では36社となっています。
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